細かく、かすかに、震えるように動く様子であることをいう、副詞。
江戸時代の俳諧(玉海集・1656年)に用例があるようで、青空文庫を検索してみると、明治期にも小説などで使われていたようだけど、近頃は見かけない。
似たようなことばがあるから、出番がないのだろうか。
「ぴくぴく」
「ひくひく」
「ひこひこ」
「ぴこぴこ」
こうして並べてみると、使い分けがとても難しい気がしてくる。
でも、ちょっと使ってみたくなる。
尾崎紅葉が書いた、「桃太郎」の続編である「鬼桃太郎」というお話に、「ひこひこ」が登場する。
時の王鬼島中に触れを下し、
誰にてもあれ日本を征伐し、
桃太郎奴が若衆首と、
分捕られたる珍宝を携え還らんものは、
此島の王となすべしとありければ、
血気に逸る若鬼輩、
ひこひこと額の角を蠢かし、
我功名せんと
想わざるはなけれども、
いずれも桃太郎が技(てなみ)に懲り、
我はと名乗出づるものも
あらざりけり、
尾崎紅葉 「鬼桃太郎」 青空文庫
圧倒的に強い桃太郎に復讐したくてもできない若鬼たちが、おでこの角を「ひこひこ」させている姿は、想像すると、なんだかおかしい。
このあと、鬼ヶ島の川に不気味な桃が流れ着き、その中から、桁外れに強い「鬼桃太郎」が誕生する。「鬼桃太郎」は、鬼社会の期待を一身に背負って、人間の桃太郎討伐に出かけるけれども……
ラストは、これ以上ないというほど、がっかりな結果となる。
尾崎紅葉は、代表作「金色夜叉」を完結させることなく亡くなってしまったため、小栗風葉が続編を書いている。
そんな紅葉が、昔話の続編を書いているというのが、なんだか面白い。
蛇足だが、「金色夜叉」は、本編も続編も、心理描写、情景描写ともに、過剰なほど言葉をつくした雅俗折喪体で、読み進めるうちに、まるで映像世界に取り込まれたかのように感じられてくる。とくに続編、愛憎の極限に追い詰められた貫一が、お宮の幻影を見る場面など、ほとんどSF映画のようである。
あの作品の魅力を損なわずに、現代語にリライトする作家さんが、出てこないものだろうか。